温熱(住)環境とリスク
素朴な疑問 シロアリ・腐朽被害は寒い地方のほうが多い?
能登半島地震や東日本大震災被災地でモルタルが脱落している現場を見ると、埼玉よりも蟻害・腐朽が多いような気がしていました。埼玉でリフォーム工事を多数手がけるとモルタル塗り壁の蟻害・腐朽に出会いますが、原因が推定できるものばかりです。玄関脇の地面に刺した柱・浴室の土台等・雨漏り(屋根・窓・雨トヨの破損です。
4月27日に、『生物劣化が木造住宅の耐震性に及ぼす影響』(主催 私塾木造住宅耐震研究会)がありました。
講師は独立行政法人 森林総合研究所 木材改質研究領域 木材保存研究室の木村和香子先生です。
主に、シロアリのことです。こちらでは普段見られない、生きているイエシロアリも見せていただきました。ヤマトシロアリの3倍ぐらいのスピードで動きます。耐震診断中に出くわしてしまったらビビリそうです。アメリカ乾材シロアリも生きたままです。
ここで、長年の地震被災地調査でわいた、素朴な疑問を質問してみました。「寒冷地のほうがシロアリの蟻害や腐朽が多くありませんか?」です。「そういう視点で調査したことがないのでわからないが事実だとしたら研究テーマとしては面白そう」とのことでした。
寒冷地の方が腐朽・蟻害が多くないのかという視点で改めて地震被災地のモルタル塗り壁の事例を見てみると、結露しか考えられないものもありました。3分板の外側に防水紙を張るモルタル塗り壁は結露を起こしやすい工法です。暖房エネルギーが多くなると、より結露が発生します。そう考えると温暖な地域より寒冷な地域の方がより結露が多く、腐朽・蟻害が多発するという仮説が成り立ちそうです。
まだデュポンのタイベックス(透湿防水シート)がなかった頃、こんな悩みがありました。
住宅金融公庫の共通仕様書には外壁の下地には防水紙を張ることと書いてあります。断熱材の室内側の透湿抵抗より外壁側の防水紙の透湿抵抗のほうが圧倒的に大きく見えます。内部(壁内)結露の危険があるということです。
このことを、お客様(建築主事で一級建築士)に説明してどう選択するか聞きました。
数日時間が欲しい。建築指導課内で話し合うとのことでした。
結果は全員一致で、公務員としては、防水紙を張るように指導する。建て主としては防水紙を張らないように要請する。
それで防水紙を張らずに外壁サイディングを貼りました。
曲解しないでください。どんどんマニュアルは進化しています。どんなに進化しても微妙な問題は残ります。そのときは、マニュアルを離れて技術を武器に自分の頭で考えましょう。
長期優良住宅の研究で、超短期ゴミ化住宅(新築後半年や1年で腐ってしまう)対策の研究が進められています。高気密高断熱の家造りが誘発させています。マニュアルを読んで、その上に配慮できる大工の成立までは、腐朽は止まらないと思います。200棟を超える家を腐らせて、血みどろの欠陥住宅裁判の後に温熱環境を心底理解した設計者・大工が残ると思います。